障害者雇用の扉

朝日雅也がキーワードから障害者雇用を読み解き、わかりやすく解説します。

初めて取り組む方はもちろん、経験豊富な方も改めてキーワードの「イロハ」を確認しませんか。

合理的配慮(合理的配慮と配慮は違うのでしょうか?)

 障害者雇用促進法では、雇用の分野における障害を理由とした差別を禁止するとともに「合理的配慮」の提供を事業主に対して義務づけています。差別禁止は当然のことですが、合理的配慮については「障害のある従業員にどこまで配慮すればいいの?」という疑問を抱く方も少なくないようです。reasonable accommodationの和訳である合理的配慮は、日本社会では少し理解しにくかった概念かもしれません。

 国連の障害者権利条約では、特定の場合に必要な変更や調整であり、過度な負担を課さないものとされています。求められればいかなる配慮もしなければならないと構える事業主の方も多いかもしれませんが、障害のある人が障害のない人と同等の権利を行使する際に必要なものであって、一般的な配慮とは性格が異なります。配慮というと、どうしても情緒的な印象を与え、また、配慮する側の度量に依拠しているイメージが伴います。そもそも権利行使のための合理的な調整であり、客観的な対応といえます。そして、職場の色々な条件を踏まえながら、適切な話し合いによってその合理性を決定していく必要があります。

 何が合理的配慮にあたるのかは、一律に細かな基準を設定することはできません。そこで、厚生労働省では「合理的配慮指針」を策定して、障害の特性に応じて考え得る合理的な配慮を「募集及び採用時」と「採用後」に分けて例示しています。

 合理的配慮の提供は、そもそも「障害者と障害者でない者との均等な機会及び待遇の確保並びに障害者がその有する能力を有効に発揮することができるようにする」ための措置です。企業は雇用した障害者に能力を発揮してもらうのは適正な雇用管理ですし、障害のある人も自分の能力を十分に発揮するために必要な配慮を適切に表現すること(もちろん、必要に応じて支援者のサポートを得ながら)が重要になります。合理的配慮は、障害者雇用の質を確保していくための両者の協働作業でもあるのです。

インクルージョン(インクルージョンって聞くけど、何のこと?)

 インクルージョン(inclusion)は日本語では「包容」、「包摂」などと訳されます。動詞はinclude(包容する、等)で、反対語はexclusion(排除)です。
 1990年代頃からノーマライゼーションやインテグレーションに代わって用いられるようになりました。障害があるために職場や学校、地域社会から排除されることなく、そもそもそこに含まれる存在として認識することを意味します。ひとつの概念なので、何をもってインクルージョンと言うのかは難しいところですが、「インクルーシブ教育」、「インクルーシブな働き方」という表現を聞かれることも多いと思います。
 ノーマライゼーションだと障害のある人の生活条件を変えていくこと、インテグレーションであると、例えば、普通学校に障害のある子どもを特別支援学校から統合させていくことのイメージが強いかもしれません。その点、インクルージョンは、障害のある人や子どもをその場に含めていることが出発点になります。
 ついでに、国連の障害者権利条約の公式訳では「包容」の表現が用いられていますが、受け入れる側が温かく包み込むイメージが想起されます。受け入れる側の度量やそれこそ包容力ではなく、そもそもそこにいるべき存在という考え方が重要です。
 前述のように何をもってインクルージョンと言うのか受け止める人の考え方も様々です。仕組みとしては分離されていても概念的にはインクルージョンが実現しているという考え方、一切の分離の状態を改善しなければインクルージョンとはいえない、という主張まで多様です。
 それでも、企業経営においてもD&I(ダイバーシティ:多様性とインクルージョン、さらには公平性を加えたDE&I)が重視されてきた経過を考えると障害者雇用をひとつの切り口として、障害の有無にかかわらず働き合う機会と環境の実現につなげたいものです。

解説者紹介

顔写真

朝日 雅也 (あさひ まさや)

埼玉県立大学 名誉教授
埼玉県障害者雇用総合サポートセンター企業支援業務部門 スーパーバイザー

埼玉県立大学保健医療福祉学部・同研究科教授として職業リハビリテーション・就労支援の教育研究に長く従事。
以前には障害者職業カウンセラーとして実践も展開。
企業支援と障害者支援を統合するアプローチでソーシャルインクルージョンの実現を目指す。

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